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秋、最も危険な蜂の季節の到来
夏が過ぎ、涼しい風が吹き始める秋。行楽シーズンとして、多くの人が野山へ出かけるこの季節は、実は、一年で最も蜂の被害が多く、最も警戒が必要な「危険な季節」でもあります。なぜ、秋の蜂は、これほどまでに攻撃的で、危険なのでしょうか。その理由は、彼らのライフサイクルの、クライマックスにあります。秋になると、蜂の巣の中では、次世代の女王蜂と、オス蜂が誕生します。彼らの使命は、巣から飛び立ち、他の巣の蜂と交尾をし、新たな血統を残すことです。巣の中にいる数千匹の働き蜂(すべてメス)たちにとって、この新しい女王蜂たちを無事に育て上げ、巣立たせることが、その生涯をかけた、最後の、そして最大の務めとなります。そのため、この時期の働き蜂たちは、極度に神経質になり、巣を守るための防衛本能が、最高潮に達しているのです。巣に近づくものは、人間であろうと、他の動物であろうと、すべてが「新女王を脅かす敵」と見なされます。夏の時期であれば、多少近づいただけでは見逃してくれたかもしれません。しかし、秋の蜂は、巣から10メートル以上離れていても、わずかな振動や音に過敏に反応し、容赦なく攻撃を仕掛けてきます。特に、オオスズメバチなどは、その攻撃性も毒性も最大となり、ハイキング中の登山客や、栗拾いに来た人々、あるいは農作業中の人々が、知らずに巣を刺激してしまい、集団攻撃を受けるという、深刻な被害が、毎年この時期に集中して発生します。また、餌となる昆虫が減ってくるため、甘いジュースの匂いや、バーベキューの匂いに誘われて、人家の周りにも、より頻繁に姿を現すようになります。秋のアウトドア活動は、常に「見えざる敵」である蜂の巣が、すぐそばにあるかもしれない、という緊張感を持って、行動する必要があります。黒い服装を避け、香りの強いものを身に着けないといった、基本的な予防策を徹底することが、楽しい秋の一日を、悪夢に変えないための、最低限の心構えなのです。
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夏、蜂の巣が爆発的に拡大する季節
梅雨が明け、本格的な夏の到来と共に、蜂たちの王国は、その勢力を爆発的に拡大させていきます。春に女王蜂が産んだ最初の働き蜂たちが羽化し、巣作りや、餌集め、そして妹たちである幼虫の世話といった、すべての労働を担うようになるからです。女王蜂は、産卵という最も重要な仕事に専念できるようになり、巣の成長スピードは、春とは比較にならないほど加速します。働き蜂の数が増えるにつれて、巣はみるみるうちに大きくなっていきます。スズメバチの巣は、特徴的なマーブル模様の外皮に覆われ、夏の中頃には、バレーボールほどの大きさにまで達することもあります。アシナガバチの巣も、巣穴の数がどんどん増え、直径15センチを超える立派なものに成長します。この時期の蜂たちは、巣を拡大し、仲間を増やすために、大量の餌を必要とします。そのため、働き蜂たちは、一日中、巣と餌場を忙しく行き来します。私たちが、庭や公園で、蜂の姿を最も頻繁に見かけるようになるのが、この夏の季節です。そして、巣が大きくなり、仲間が増えるにつれて、彼らの「防衛本能」もまた、強くなっていきます。巣に近づくものに対しては、敏感に反応し、警戒行動をとるようになります。まだ、秋ほどの攻撃性はありませんが、巣を直接刺激したり、洗濯物を取り込む際に、うっかり巣を揺らしてしまったりすると、集団で攻撃してくる危険性があります。夏の時期に、家の周りで蜂の羽音が頻繁に聞こえるようになったり、同じ場所をしきりに出入りする蜂の姿を見かけたりしたら、それは、近くに巣が大きく成長しているサインです。この段階になると、もはや素人が手を出せるレベルではありません。巣がさらに巨大化し、手がつけられなくなる前に、速やかに専門の駆除業者に相談することが、安全を確保するための、最も賢明な判断と言えるでしょう。
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冬、蜂たちはどこへ消えるのか
あれほど夏の終わりから秋にかけて、猛威を振るっていたスズメバチやアシナガバチ。しかし、厳しい冬が訪れると、その姿をぱったりと見かけなくなります。彼らは一体、どこへ消えてしまったのでしょうか。その答えは、蜂の種類によって異なりますが、スズメバチやアシナガバチの生態は、非常に儚く、そしてドラマチックです。実は、スズメバチやアシナガバチの巣は、「一年限り」の使い捨てです。秋に、新しい女王蜂とオス蜂を巣立たせた後、最初に巣を作った古い女王蜂と、数千匹にまで増えた働き蜂たちは、その役目を終え、冬の寒さと共に、すべて死に絶えてしまうのです。あれほど巨大で、威容を誇った巣も、冬にはもぬけの殻となり、二度と使われることはありません。風雨に晒され、やがて朽ちて、自然へと還っていきます。では、種の命脈は、どのようにして受け継がれていくのでしょうか。その唯一の希望を託されているのが、巣から飛び立ち、無事に他の巣のオス蜂と交尾を終えた、新しい女王蜂です。彼女たちだけが、冬を越すことができます。交尾を終えた新女王蜂は、たった一匹で、越冬するための安全な場所を探します。朽ちた木の中や、木の皮の隙間、あるいは、土の中など、凍えることのない、静かな場所を見つけると、そこで春が来るまで、長い休眠状態に入るのです。そして、翌年の春、長い眠りから覚めた女王蜂は、再びたった一匹で、新たな巣を作り、産卵を開始します。こうして、新たな王国の歴史が、またゼロから始まるのです。冬の静寂の中で、私たちは蜂の脅威から解放されます。しかし、その静けさの裏側で、次世代の女王蜂たちが、新たな春の息吹を、じっと待っている。そのことを、私たちは忘れてはなりません。