それは、蒸し暑い夏の夜のことでした。就寝前に、首筋が少しチクチクするかゆみを感じましたが、汗疹か何かだろうと、特に気にも留めずに眠りにつきました。しかし、翌朝、鏡を見て私は言葉を失いました。左の首筋から鎖骨にかけて、まるで熱した鉄の棒を押し付けられたかのような、真っ赤な一本の線が走っていたのです。その長さは十センチ以上。よく見ると、線の上には無数の小さな水ぶくれができており、見た目は完全に火傷でした。しかし、火傷をした記憶は全くありません。そして何より奇妙だったのは、その症状が、痛みよりもむしろ、じっとしていられないほどの猛烈な「かゆみ」を伴っていたことです。頭の中は「なぜ?」「何これ?」という疑問符で埋め尽くされ、得体の知れない恐怖に襲われました。仕事中も、痒くて痒くてたまらず、無意識に首筋を掻いてしまいそうになるのを必死で堪えました。しかし、症状は時間と共に悪化し、水ぶくれは次第に大きくなり、一部は破れてじゅくじゅくとした状態になってしまいました。同僚からは「どうしたの、その首?」と心配され、私はただ曖昧に笑うことしかできませんでした。もう自力では無理だ。そう観念した私は、三日後、ついに皮膚科の門を叩きました。診察室で恐る恐る症状を見せると、医師は一目見るなり、あっさりとこう言いました。「ああ、これは典型的なやけど虫ですね」。やけど虫?初めて聞く名前に戸惑う私に、医師はアオバアリガタハネカクシという虫の毒による皮膚炎であることを、丁寧に説明してくれました。おそらく、寝ている間に虫が首にとまり、それを無意識に手で払ってしまったのだろう、と。原因が判明した安堵感と、あんな小さな虫がこれほどの症状を引き起こすのかという驚きが入り混じる中、処方されたステロイド軟膏を塗り始めました。薬の効果は絶大で、あれほど私を苦しめた痒みは数日で引き、一週間後には赤みもほとんど目立たなくなりました。この体験を通じて私が学んだのは、原因不明の皮膚トラブルを自己判断で放置することの危険性と、専門医に相談することの重要性です。あの恐怖の一週間は、今でも私の心に深く刻み込まれています。