それは、数年前の八月、友人たちと山奥の渓流へバーベキューに出かけた時のことでした。透き通った冷たい水、蝉の声、そして立ち上る肉の焼ける匂い。まさに夏の楽園でした。私は、川の水に足をつけて涼みながら、友人との会話に夢中になっていました。その時です。ふくらはぎに、まるで熱した針を突き刺されたかのような、鋭い激痛が走りました。思わず「痛っ!」と叫び声を上げ、自分の足を見ると、そこには一匹の大きなハエのような虫が、しっかりと食いついていました。慌てて手で払いのけると、虫はブーンという重い羽音を立てて飛び去りましたが、刺された箇所からは、じわりと血が滲み出ていました。それが、私とあぶとの初めての、そして最悪の出会いでした。痛みは、一瞬で終わるようなものではありませんでした。刺された場所を中心に、ズキン、ズキンと脈打つような痛みが、いつまでも続きます。まるで、皮膚の内部で小さな爆発が繰り返されているかのようでした。私はすぐに水で傷口を洗い流し、持っていた保冷剤で冷やしましたが、痛みは一向に引きません。その日のバーベキューは、もはや楽しむどころではありませんでした。家に帰る頃には、ふくらはぎはパンパンに腫れ上がり、熱を持っていました。夜になると、今度は耐え難いかゆみが襲ってきました。痛いのに、猛烈にかゆい。掻いてはいけないとわかっているのに、無意識に手が伸びてしまう。その晩は、痛みとかゆみでほとんど眠ることができませんでした。翌日、皮膚科を受診し、強力なステロイド軟膏と抗アレルギー薬を処方してもらいました。結局、腫れとかゆみが完全に引くまでには一週間以上かかり、刺された跡は、その後何か月も紫色のシミのように残ってしまいました。あの体験以来、私は夏のアウトドア活動では、虫除けと服装に、人一倍気を使うようになりました。あの一瞬の激痛は、自然の中で遊ぶことの楽しさと、その裏にある厳しさを、私の体に深く刻み込んだのです。