楽しいはずの旅行や出張が、最悪の悪夢に変わってしまう。そんな事態を引き起こしかねないのが、宿泊先のホテルや交通機関に潜むトコジラミです。彼らは、私たちの荷物に巧みに紛れ込み、自宅までついてきて大繁殖することがあります。この見えざる侵略者から身を守り、旅の思い出を不快なものにしないためには、「持ち込まない、持ち帰らない」という強い意識と、具体的な予防策を知っておくことが不可欠です。まず、宿泊先の部屋に到着したら、荷物を置く前に必ずやるべきことがあります。それは、ベッド周りの徹底的なチェックです。スマートフォンのライトなどを使い、マットレスの四隅や縫い目、タグの周辺、そしてヘッドボードと壁の隙間などを念入りに照らして確認しましょう。探すのは、成虫そのものだけでなく、黒いインクのシミのような「血糞」や、抜け殻です。もしこれらの痕跡を一つでも発見した場合は、絶対にその部屋を使わず、すぐにフロントに申し出て部屋を変えてもらうか、最悪の場合、宿を変更する勇気も必要です。次に、滞在中の荷物の管理です。トコジラミは床を徘徊していることが多いため、スーツケースやバッグを直接床に置くのは避けましょう。荷物置き(バゲージラック)があれば必ずそれを使用し、なければ机や椅子の上など、床から離れた場所に置くのが賢明です。クローゼットの中も安全とは言い切れません。最も安全な場所は、彼らが好みづらい、滑りやすく隠れる場所の少ないバスルームです。そして、最も重要なのが帰宅後の対策です。旅先でトコジラミに遭遇しなかったとしても、気づかないうちに荷物に紛れ込んでいる可能性はゼロではありません。スーツケースは家の外、例えば玄関先やベランダで開き、中身を慎重に確認します。衣類は全て、大きなビニール袋に入れて口を縛り、そのまま洗濯機へ直行させましょう。そして、可能であれば、洗濯後に高温の乾燥機にかけるのが最も効果的です。トコジラミは熱に非常に弱く、六十度以上の熱で数十分、百度なら数分で卵まで完全に死滅します。スーツケース本体も、掃除機をかけたり、熱い蒸気を当てるスチーマーで処理したりすると、より万全です。これらの少しの手間を惜しまないことが、あなたの家をトコジラミの脅威から守る、最大の防御策となるのです。
旅行前に知るトコジラミ予防策