大切に保管していたはずのお米の中に、黒くて小さな虫がうごめいているのを発見した時の衝撃と不快感は、言葉に尽くしがたいものがあります。この、私たちの食欲を一瞬で奪い去る招かれざる客の正体は、そのほとんどが「コクゾウムシ」という甲虫の一種です。体長は三ミリ程度と非常に小さく、全体的に黒褐色で、その名の通り、象の鼻のように長く伸びた口吻(こうふん)が最大の特徴です。この口吻を使って、彼らは硬い玄米の表面にさえも穴を開けることができます。彼らは、その硬い体で米袋を食い破って外部から侵入してくることもありますが、実はより厄介なのが、私たちが購入したお米の段階で、すでに米粒の内部に卵として産み付けられているケースです。収穫後の貯蔵段階や、精米・袋詰めの過程で農家の倉庫などから混入した成虫が、米粒に小さな穴を開けて一粒に一個ずつ卵を産み付け、その後、粘液で蓋をしてしまうのです。この巧妙な産卵方法は、肉眼での発見をほぼ不可能にします。そして、そのお米が私たちの家庭に運ばれ、米びつの中で保管されている間に、適切な温度と湿度という条件が揃うと、卵が孵化・成長し、ある日突然、米粒を内側から食い破って成虫となって姿を現すのです。この現象は「内部加害」と呼ばれ、発見した時にはすでに手遅れとなっていることが多いのが特徴です。また、コクゾウムシと並んでよく見られるのが「ノシメマダラメイガ」の幼虫です。こちらは蛾の幼虫で、白っぽい芋虫状の姿をしており、米粒を糸で綴って巣を作るため、お米が蜘蛛の巣のように固まっている場合はこの虫を疑うべきです。つまり、虫が湧いたからといって、必ずしも家の衛生状態が悪いというわけではありません。コクゾウムシは、どんなに清潔な家庭でも発生しうる、非常に厄介な食品害虫なのです。この小さな侵略者の正体と、巧妙な生態を正しく理解することが、適切な対処と再発防止への第一歩となります。
米に湧く黒い虫の正体は?