あれほど夏の終わりから秋にかけて、猛威を振るっていたスズメバチやアシナガバチ。しかし、厳しい冬が訪れると、その姿をぱったりと見かけなくなります。彼らは一体、どこへ消えてしまったのでしょうか。その答えは、蜂の種類によって異なりますが、スズメバチやアシナガバチの生態は、非常に儚く、そしてドラマチックです。実は、スズメバチやアシナガバチの巣は、「一年限り」の使い捨てです。秋に、新しい女王蜂とオス蜂を巣立たせた後、最初に巣を作った古い女王蜂と、数千匹にまで増えた働き蜂たちは、その役目を終え、冬の寒さと共に、すべて死に絶えてしまうのです。あれほど巨大で、威容を誇った巣も、冬にはもぬけの殻となり、二度と使われることはありません。風雨に晒され、やがて朽ちて、自然へと還っていきます。では、種の命脈は、どのようにして受け継がれていくのでしょうか。その唯一の希望を託されているのが、巣から飛び立ち、無事に他の巣のオス蜂と交尾を終えた、新しい女王蜂です。彼女たちだけが、冬を越すことができます。交尾を終えた新女王蜂は、たった一匹で、越冬するための安全な場所を探します。朽ちた木の中や、木の皮の隙間、あるいは、土の中など、凍えることのない、静かな場所を見つけると、そこで春が来るまで、長い休眠状態に入るのです。そして、翌年の春、長い眠りから覚めた女王蜂は、再びたった一匹で、新たな巣を作り、産卵を開始します。こうして、新たな王国の歴史が、またゼロから始まるのです。冬の静寂の中で、私たちは蜂の脅威から解放されます。しかし、その静けさの裏側で、次世代の女王蜂たちが、新たな春の息吹を、じっと待っている。そのことを、私たちは忘れてはなりません。