私は数年前、実家の軒下に作られた大きなスズメバチの巣を自分で駆除しようと試みました。業者に見積もりを依頼したところ数万円と言われ、それならばと一万円台の防護服をネットで購入したのが全ての過ちの始まりでした。届いた防護服は宇宙服のように白く、それを身に纏った瞬間、自分は無敵の鎧を手に入れたような高揚感に包まれました。その過信が、蜂に対する最低限の敬意と警戒心を麻痺させてしまったのです。夕暮れ時、私はスプレーを両手に巣の直下まで堂々と歩み寄りました。しかし、薬剤を噴射した瞬間に起きた光景は、想像を絶するものでした。数百匹の蜂が黒い雲のように舞い上がり、私の全身に体当たりをしてきたのです。防護服のヘルメットには「バチバチ」と雨のように蜂がぶつかる音が響き、その振動は恐ろしい生々しさを持って伝わってきました。そして数分後、信じられないことが起きました。太もものあたりにチクッとした激痛が走り、続いて背中にも同じような衝撃が加わったのです。防護服を着ているはずなのに、なぜ刺されるのか。パニックになった私は這う這うの体で家の中に逃げ込み、家族の手を借りて震えながら防護服を脱ぎました。そこで判明したのは、安価な防護服の生地は、膝を曲げた際などに生地が突っ張ると厚みが失われ、オオスズメバチの長い針が容易に貫通してしまうという事実でした。私の選んだ防護服は、激しい運動を伴う駆除作業には全く強度が足りず、その性能は実戦において意味ないものでした。さらに追い打ちをかけたのが、脱衣時のミスです。服の皺に隠れていた一匹の蜂が、ファスナーを下ろした瞬間に私の腕に飛び移り、最後の一刺しを見舞ったのです。この経験で痛感したのは、防護服は決して魔法のバリアではないということです。本当の安全管理とは、道具の限界を正しく知り、その隙間を埋めるための緻密な手順と冷静な判断力を持つことにあります。プロの業者は防護服を着た上で、さらに内側に厚手の服を重ね、全ての接合部をガムテープで目張りし、二人一組で互いの状態を常にチェックしています。私は「服さえあれば意味がある」と思い込んでいましたが、その無知こそが最大の脆弱性でした。あの時の激痛とパニック、そして後の腫れと恐怖を思えば、数万円の駆除費用は安いものだったと今では心から確信しています。防護服という形だけの安心感に命を預けてはいけません。それは時に、危険な場所へ自ら踏み込ませるための片道切符になりかねないからです。
防護服を過信して刺された失敗談と本当の安全管理