全ては、腕にできた数個の赤い発疹から始まりました。最初は、寝ている間に蚊にでも刺されたのだろうと、軽く考えていました。しかし、その痒みは尋常ではなく、翌日には足、また次の日には首筋と、刺された跡は夜毎に増えていきました。市販の虫刺され薬を塗っても気休めにしかならず、夜中に猛烈な痒みで目が覚める日々。私の安息の場所であるはずの寝室は、いつしか見えない敵に怯える緊張の空間へと変わってしまったのです。疑心暗鬼に駆られた私は、インターネットで「夜、寝ている間に刺される、猛烈に痒い」といった言葉を検索しました。画面に現れたのは「トコジラミ」という、聞きたくもない名前でした。その生態や被害の深刻さを読み進めるうちに、全身の血の気が引いていくのを感じました。まさか、自分の家が。震える手でベッドのマットレスをひっくり返し、縫い目を丹念に見ていくと、そこにいました。黒いインクのシミのような糞の跡と、そして、数匹の茶色く扁平な虫が蠢いていたのです。その瞬間、私の日常は完全に崩壊しました。すぐさまドラッグストアで強力そうな殺虫剤を買い込み、部屋中に撒き散らしました。しかし、効果は一時的で、翌日にはまた新たな刺し跡が体に刻まれていました。彼らは、薬の届かないベッドフレームの奥深くや、壁紙の裏に潜んでいたのです。ベッドで眠るのが怖くなり、ソファで夜を明かすようになりましたが、すぐにソファにも彼らの気配を感じるようになりました。家中が敵だらけに思え、友人を家に呼ぶこともできず、精神的にどんどん追い詰められていきました。眠れない夜が続き、日中の仕事にも集中できません。まさに、生き地獄でした。自力での駆除が不可能であることを悟った私は、最終的に、高額な費用を覚悟で専門の駆除業者に依頼することを決意しました。トコジラミの被害は、単なる虫刺されではありません。それは、人の心と生活を根こそぎ破壊する、静かなる侵略なのです。あの恐怖を経験した者として、もし少しでも兆候を感じたら、絶対に問題を軽視せず、一刻も早く専門家の助けを求めるべきだと、強く伝えたいです。
我が家が戦場になったあの夜から