それは、ゴールデンウィークも終わった、5月のある日のことでした。私が、ベランダの隅に置いてあった、古い植木鉢を動かそうとした、その瞬間。植木鉢の裏側に、見慣れないものが付着しているのに気づきました。それは、灰色で、とっくりを逆さにしたような形をした、直径5センチほどの、小さな巣でした。そして、その巣の上には、一匹の、ひときわ大きなスズメバチが、じっと留まっていました。女王蜂です。彼女は、たった一匹で、ここに新しい王国を築こうとしていたのです。私の心臓は、一瞬、凍りつきました。しかし、次の瞬間、私は、これが千載一遇のチャンスであることに気づきました。「今、この女王蜂一匹を倒せば、夏の悪夢は訪れない」。私は、ゴキブリ用の殺虫スプレーを、音を立てないように、そっと手に取りました。そして、数メートルの距離から、息を止め、狙いを定めました。女王蜂は、まだ私の存在に気づいていないようです。私は、祈るような気持ちで、スプレーのボタンを押し込みました。白い霧が、女王蜂と巣を、完全に包み込みます。直撃を受けた女王蜂は、一瞬、激しく羽を震わせましたが、やがて、力なく地面に落下しました。私は、さらに数秒間、スプレーを噴射し続け、その動きが完全に止まったのを確認すると、その場にへたり込みました。心臓は、まだバクバクと音を立てています。その後、私は、長い棒の先で、巣を突き落とし、女王蜂の死骸と共に、厚手のビニール袋に入れて、固く口を縛りました。それは、わずか数分間の出来事でした。しかし、私にとっては、我が家の平和を賭けた、壮絶な一騎打ちだったのです。あの時、もし私があの巣を見逃していたら、今頃、我が家のベラン-ダは、巨大な蜂の要塞と化していたかもしれません。春の定期的な点検。その重要性を、私は、身をもって学んだのです。