あれは数年前の四月、庭の掃除をしていた時のことでした。突如として耳元で「ブオォォォン」という、まるで小型ドローンが飛んでいるかのような凄まじい羽音が響きました。驚いて振り返ると、目の前わずか三十センチほどの位置に、真っ黒で丸っこい巨大なハチが空中に静止してこちらを睨みつけていたのです。全身から血の気が引き、私はその場に凍りつきました。子供の頃から「大きなハチには近づくな」と教えられてきた恐怖心が蘇り、一歩でも動けば即座に刺されるのではないかという強迫観念に襲われました。ハチは私の目の高さを維持したまま、左右に数センチ動くだけで一向に立ち去ろうとしません。冷や汗を流しながら数分間、私はその場を動けずにいましたが、ある異変に気づきました。そのハチは、羽音こそ威圧的ですが、針を向けてくる様子もなく、ただ私を観察しているような不思議な愛嬌があったのです。意を決してゆっくりと後退してみると、ハチは私を追いかけることなく、元の空間を回遊し始めました。後で調べて分かったのですが、それがクマンバチのオスの習性だったのです。彼らには針がなく、春の時期にメスを待つためにホバリングを繰り返すのだそうです。私が恐怖したあの数分間、彼は単に「こいつは俺の彼女かな?」と確認しに来ていただけだったという結末に、私は腰が抜けるほどの脱力感を覚えました。この体験から、私は生き物に対する先入観の危うさを学びました。もしあの時、パニックになって手で払ったり、殺虫剤を乱射したりしていたら、近所にいたかもしれないメスを刺激して、本当の危険を招いていたかもしれません。クマンバチは、その巨体に似合わぬほど臆病で温厚な生き物です。今では、春に庭で彼らを見かけると、「また今年もメスを探しているのか、頑張れよ」と心の中で声をかける余裕さえ生まれました。あの時の恐怖の時間は、今では笑い話となり、私の自然に対する理解を一段深めてくれる貴重な教訓となりました。クマンバチという存在は、私にとって「見かけで判断してはいけない」という人生の教訓を体現する、愛すべき庭の住人となったのです。