「お客様から『防護服を着ていたのに刺された』という相談をいただくことがありますが、その多くは服の性能以前の、初歩的なミスが原因です」と語るのは、ハチ駆除歴二十年のベテラン、大塚さんです。大塚さんによれば、防護服という装備には明確な限界があり、それを理解していない素人の作業は、どれほど高価な服を着ていても意味ないものになってしまうと言います。プロの現場で最も恐れられているのは、防護服の「経年劣化」と「着こなしの甘さ」です。防護服の多くは特殊なコーティングが施されていますが、洗濯を繰り返したり日光に晒されたりすることで、素材が柔軟性を失い、微細なひび割れが生じます。スズメバチはこの僅かな綻びを見逃しません。また、最も多い事故の原因は、手袋と袖口、あるいは長靴と裾の間の「境界線」にあります。作業に夢中になって腕を上げた瞬間、袖がまくり上がって僅かな隙間が生じる。そこから侵入した蜂は、人間の体温と二酸化炭素を求めて防護服の深部へと潜り込みます。こうなると、防護服は蜂を守り、人間を閉じ込める檻へと変貌してしまいます。大塚さんは「防護服は一ミリの隙間も許さない潜水艦のようなものだと考えてください。どこか一箇所でも漏れがあれば、船全体が沈むのと同じです」と強調します。さらに、プロの視点では「色」の管理も重要です。白は蜂の攻撃を抑える効果がありますが、作業中に付着した土汚れや、過去の蜂の汁がついたままの防護服は、蜂を刺激する新たな標的となります。一度でも激しい攻撃を受けた防護服には、目に見えないレベルで蜂の警報フェロモンが染み付いており、適切な洗浄を行わなければ、次の現場では「着ているだけで蜂を怒らせる服」になってしまいます。これでは防護どころか、自ら危険を招き寄せているだけで、防護服としての本来の役割は意味ないものと言えるでしょう。また、大塚さんは、防護服のシールド越しに見る視界の歪みについても指摘します。ポリカーボネート製のシールドは、角度によって距離感が掴みにくく、梯子の踏み外しや、蜂の巣への不用意な接触を引き起こします。道具を使いこなすには、それに見合った訓練と経験が必要です。防護服は決して万能の盾ではなく、使い方を一歩誤れば死に直結する道具であることを、私たちは肝に銘じなければなりません。プロの仕事が高いのは、単に蜂を殺すからではなく、こうした「道具の限界」を技術と経験で完全に補完し、一〇〇パーセントの安全を担保しているからなのです。
プロが明かす防護服の限界と隙間が生む致命的なリスク